1.気管支動脈のみならず、肺静脈まで色素が十分に注入された1体の左右肺について、肺静脈の肺内分布を実体顕微鏡によって調査した。肺内気管支静脈は気管支壁より起り近傍の肺静脈に注ぐ。これについてはZuckerkandl(1881)、山下(1954)の記載があるが、今回、実体鏡下にその形態を明確に捉えることができた。径は0.5mm以下で、区域気管支より末梢の気管支壁に認められる。 2.右鎖骨下動脈が大動脈弓の最終枝として起こり、食道の背側を通るいわゆるG型の1例について、気管支動脈の分岐態度を調査した。結果的にはこの破格例においても気管支動脈の分岐は正常例と大差はない。ことに右上枝となる枝は、正常例と同じく大動脈性の右肋間動脈から起始する。古くからG型における右鎖骨下は、大動脈より分岐する右肋間動脈に由来するという説がある。しかしこの例における気管支動脈の分岐態度は、この説に否定的な結論となった。 3.さきの著者らの研究では、動脈内に十分に色素が注入された遺体について調査した。そのためかなり細い枝にいたるまで剖出した。これは臨床的には実情に沿わない点もあった。今回は色素の注入されていない遺体を使用して再調査した。その結果右2本左2本という気管支動脈の数は、著者らのさきの結論と差はなかった。 4.右肺に奇静脈葉の認められた1例について肺外気管支静脈の走行を調査した。これによって、気管支静脈のル-トは従来考えられていたよりも広い範囲に及び、奇静脈のほか、上大静脈や甲状腺静脈、さらに反対側の肋間静脈にも広がり、同時に左右の気管支静脈が気管の前面で互いに吻合してnetworkを形成している。そのほか静脈性心臓間膜を経て左心房に開口する気管支静脈を認めた。これらの所見を総合すると、肺静脈と気管支静脈との間には形態学的に厳密な区別は不可能となる。 5.これまで肉眼解剖学的に気管支動脈の肺外走行、すなわち起始から肺門にいたるまでの走行のみならず、走行途上における周囲器官との位置的関係について調査した。このあとさらに気管支動脈の肺内分布を実体鏡のもとに剖出した。肺内では同時に肺静脈や肺内気管支静脈も剖出され、これらの所見をもとに肺における循環動態を形態学的に再検討した。
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