タフト細胞(以下、最近の用語として刷子細胞とする)はヒトを含む哺乳動物の内胚葉由来の上皮に散在する特殊な細胞種であるが、その本態については不明の点が多かった。本研究で代表者らはラットの肝蔵型脂肪酸結合蛋白(L‐FABP)への抗体が刷子細胞を特異的に免疫染色することを発見し、これをマ-カ-として利用し、ラット消化器系における刷子細胞についていくつかの新しい所見を見いだした。 刷子細胞が高頻度に見つかったのは胃および総胆管であった。胃においては噴門部上皮に集合的に、また胃体部および幽門部の表層および胃小〓に散在性に刷子細胞が存在し、すべてLーFABP陽性であった。形態的には、すべての刷子細胞が基底部に細い細胞質突起を有し、そこには何らの分泌果粒も存在しないことが確認された。ラットの個体発生において、刷子細胞は既に生後0日の胃にLーFABP陽性を有して存在し、最初の2週間の乳飲みの時期が終了した後の生後3、4週のうちに急激にその数を増すことがわかった。 総胆管の上皮においては、走査電顕の観察により形態学的に認められる刷子細胞は生後4週間でやっと出現したが、LーFABP免疫陰性であった。刷子細胞の頻度は雄性ラットでは第8週から12週にかけて、雌では約2週間遅れて第10週から14週にかけて急激に増加し、性差が見られたが、両性とも生後16週以後、全上皮細胞の約30%に達して一定となった。一方、LーFABP陽性の刷子細胞は生後8週で初めて出現し、16週以後除々に増加したが、40週の時点でも全総胆管刷子細胞の約25%ほどの陽性率であった。 本研究は特異的なマ-カ-の使用により、刷子細胞の分布、形態、発生の詳細を明らかにしたのみならず、脂肪酸の吸収・代謝に関与するとされるLーFABPの刷子細胞での発現を示して、この細胞種の機能の解明に糸口を与えた。
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