肝臓はタウリンを高濃度に含有する器官の一つである。しかしタウリンの機能的役割については胆汁酸抱合に関与する事実の他は明らかでない。しかも胆汁酸抱合の主体はグルクロン酸であり、必要と思われる以上の大量のタウリンが肝臓に存在するのは不思議ともいえる。この疑問をとく一つの手段として、タウリンの抗体を作成し(自家抗体)、その抗体の特異性を検討し、さらにこの抗体を用いる免疫組織化学法により肝細胞における局在様式を調べてみることを目的とした。 材料として用いたラット肝では、タウリンの免疫陽性反応は概ね肝実質細胞に分布していたが、一部は胆管壁にも存在する可能性が光学顕微鏡による所見で得られた。肝実質細胞に分布するタウリンを詳しく眺めてみると、肝小葉内に一様に分布するのではなくて、肝小葉周辺部に濃厚に、中心静脈に近い実質細胞には低濃度に局在するという特異的な分布様式を認められた。この分布様式は肝の異なる葉や部位においても等しく認められた。光学顕微鏡レベルで、タウリン免疫陽性構造は主として直径約0.3μm程度の顆粒として肝実質細胞質に含有されているのが認められた。これらの所見を電子顕微鏡で検討したところ、胆管壁に存在するのではという光顕での印象が立証された。すなわち肝実質細胞に近接する小葉間胆管の壁に付着したびまん性の免疫陽性反応が認められた。肝実質細胞内でも光顕所見は裏付けられたが、顆粒状態構造の他に、弱いびまん性の反応も存在した。 以上の所見が毒物によって惹起される障害肝においてどのように変動するかを、四塩化炭素中毒モデルラットで調べた。退行性変化の程度に応じて肝実質細胞のタウリン含有量が低下するのが認められたが、その他に特異的な変化はなかった。現在さらにタウリン関連物質の分布様式についても検討中であるが、腸管循環系が重要な鍵ではと示唆された。
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