研究概要 |
ブタ腎の中鎖アシルーCoAデヒドロゲナ-ゼのacetoacetylーCoAとの複合体および基質であるoctanoylーCoAとの反応で生じるpurple complexの性質を共鳴ラマン分光法を用いて調べた。同位体置換したFADで再構成した酵素および同位体置換したacetoacetylーCoA、octanoylーCoAを用いて共鳴ラマンスペクトルを測定した。バンド位置と同位体シフトから、ラマンバンドの帰属を行い、構造を考察した。本酵素は基質類似体acetoacetylーCoAと複合体を形成すると、550nmあたりに極大をもつブロ-ドな吸収帯を生じる。この吸収帯を632.8nmの光で励起すると、酸化型フラビンおよびacetoacetylーCoAに由来するラマンバンドが観測された。この結果はこの吸収帯が酸化型フラビンとacetoacetylーCoAとの電荷移動吸収帯であることを示している。1,622cm^<-1>のバンドはacetoacetylーCoAのエノラ-ト型のC(3)=0伸縮とC(2)ーH bendingの混じったバンドであり、1,483と1,119cm^<-1>のバンドはC(2)=C(1)ー0^-の領域に関係している。octanoylーCoAとの反応で生じるpurple complexを632.8nmの光で励起すると、還元型フラビンおよび基質由来のバンドが観測された。この結果はpurple complexが還元型酵素と基質が反応して生じたoctenoylーCoAとの電荷移動複合体であることを示している。1577cm^<-1>のバンドはcotenoylーCoAのC(2)ーC(1)=0の領域に関係している。両複合体とも、結合したリガンドの構造はC(2)=C(1)ー0^-のかたちをした共鳴構造が大きな寄与をしたものになっている。これはC(1)=0の酸素原子付近に正電荷やdipoleなどの求電子基が存在し、カルボニル基と静電相互作用をする結果と考えられる。この静電相互作用は触媒反応においても重要で、基示のC(2)ーHのpKを下げるはたらきをし、反応初期におこるC(2)ーHからのプロトン引き抜きを容易にしているものと考えられる。
|