研究概要 |
Na,KーATPaseは細胞内環境維持のためのイオンポンプとして必要不可欠の酵素である。本酵素はcatalytic subuitであるαーsubunitと未だ機能がはっきりしないβーsubunitから構成されている。最近,βーsubunitがNa,KーATPaseの活性発現および細胞内輸送に必須であることを示唆する結界が幾つか報告され,その機能が次第に明かにされつつある。また本酵素は細胞膜上で極性を持って発現されることが知られており,この点についてもβーsubunitが重要な役割を果たしていることが考えられる。このような状況を踏まえ,以下の研究を行った。 1.前回はHeLa細胞に改変βーsubunit(N末側半分)を遺伝子工学的手法を用いて発現させ,改変βーsubunitおよび宿主α,βーsubunitの生合成,アセンブリ,輸送の解析を行った。この中で,改変βーsubunitを発現している細胞はアセンブリが抑制されることが明かになった。今回はこのアセンブリ抑制機構の解明に向けて研究をおこない,今も継続中である。現在,アセンブリを仲介する第3因子を想定し,この因子と改変βーsubunitの相互作用の可能性を検討している。2.Na,KーATPaseの細胞膜上の極性を持った局在様式を内耳について定量的免疫電子顕微鏡法を用いて解析し,内耳リンパ液の産生機構について考察した。また,毛様体および網膜色素上皮細胞についても同様の方法で解析を行い,眼房水の産生機構について考察した。3.脳のクラスリン・コ-ト小胞を神経細胞由来とグリア細胞由来に分けて,それぞれを分画採取することができた。各クラスリン・コ-ト小胞中に,それぞれの細胞に特異的なNa,KーATPaseが検出され(即ち,神経細胞に特異的なNa,KーATPaseとグリア細胞由来のNa,KーATPase),internalizationによって小胞に取り込まれたものと思われる。クラスリン・コ-ト小胞にNa,KーATPaseが存在する事実は,神経細胞における本酵素の再分布と分解過程を解析するかで重要である。
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