サルの扁桃核および海馬における記憶機構を細胞レベルで調べることを目的として、視覚性短期記憶課題遂行中のアカゲザルの扁桃核および海馬からニュ-ロン活動を記録し、解析した。 まず、4頭のアカゲザルに遅延非見本合わせ課題を訓練した。この課題では、サルがレバ-を押すと、1から3.5秒の待ち時間の後に、テレビ画面に0.5から1秒間、写真や図形(見本刺激)が現れる。見本刺激が画面から消えた後、1から3.5秒間テレビ画面は暗くなる。(遅延期)。遅延期の後、ふたたびテレビ画面に写真や図形が現れる。このとき、画面に表示された写真や図形が最初に表示された見本刺激と同じであれば、サルはレバ-を押し続けなければならない。遅延期につづき、見本刺激とは異なった写真や図形(反応刺激)が現れたときは、サルは1秒以内にレバ-を離し、報酬をもらう。見本刺激の呈示回数は1から4回とし、見本刺激および反応刺激は、ビデオディスクに記録した約600枚の写真(サルの顔や全身像、景色、ヒトの顔、サルが日常目にする食べ物や実験器具など)およびコンピュ-タ・グラフィックから選んだ。 3頭のアカゲザルの扁桃核から記録したニュ-ロン活動158個中、20個のニュ-ロンが、遅延期に活動の増加を示した。この場合の活動増加は、どの見本刺激の後でも見られ、特定の視覚刺激の短期記憶との関連は否定された。一方、8個のニュ-ロンは特定の見本刺激の後の遅延期に活動の増加が見られ、特定の視覚刺激の短期記憶に関与するものと推定された。 1頭のアカゲザルの海馬から記録したニュ-ロン活動52個中、遅延期に活動の増加または減少する例は見られなかった。しかし、サンプル数が少なく、海馬の全領域をカバ-していないので、追加実験を行なう。
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