MCDペプチドは4個のCys残基を含み、分子内で2個のSーS結合を形成している。しかし現在までこの構造は合成的に決定されていない。MCDペプチドの合成は既に報告されているものの、SーS結合を選択的に形成させず、遊離の4個のSH基を空気酸化させることにより合成し、ヒスタミン遊離作用をもってその生成を確認しているのみである。そこで、我々は、4個のCys側鎖の対して、2種類の保護基を導入し、空気酸化及びヨ-ド酸化の2段階の操作によってSーS結合を選択的に生成させた。生成物をYMC ODSーAM逆相カラム、およびAsahipak逆相カラムを用いて精製後、凍結乾燥して生理活性測定のための標品とした。 海馬スライス切片にMCDペプチド(1μM)を投与し、CAI錐体細胞の集合電位振幅増加を継時的に測定した。MCDペプチドを5分間投与後、4分後にはresponseが漸増していき約15分で反応はplateauに達し、それが持続した。コントロ-ルレベルに大して集合電位振幅は約180%まで増加し、40分以上持続した。以上の結果から、化学合成したMCDペプチドは天然のハチ毒から精製したものと同様にLTP誘発活性を有することが明らかとなった。また、天然のMCDペプチドを用いて決定された構造の正しいことが合成的にも認められた。 LTPは高頻度の電気刺激(テタヌス刺激)によっても誘導されることが知られているが、MCDによる誘導と機構上差があるかどうか検討した。テタヌス刺激で誘導されるLTPは、グルタミン酸レセプタ-の一種であるNMDAレセプタ-のブロッカ-でその誘導が阻害されることが知られている。しかし、MCD投与時にNMDAブロ-カ-であるAP5やMK801を加えてもLTP誘導は抑制されなかった。以上のことから海馬のCA1領域においては2種類の異なる経路でLTP誘導の起きることが明らかとなった。
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