ハチ毒MCDペプチドは海馬CAl領域で長期増強(LTP)様の作用を引き起こすことが知られているが、われわれもMCDを合成し、そのことを確認している。その機構としてMCDが脳内にある種のKーチャンネルと結合することが考えられているが、われわれは今回MCDにはこの他にも肥満細胞においてGTP結合蛋白の活性化させること、またそのものでイオンチャンネルを形成する能力が存在することを見いだした。すなわち、ラットの肥満細胞のカルシウム濃度を細胞に取り込ませたFura2により測定するとMCD投与により上昇した。また、この上昇は百日咳毒素処理により抑制された。 さらに、MCDの誘導体や類似のペプチドを調整し、どの活性がLTP誘導能に最も深く関与しているのかを検討した。MCDと同じくハチ毒であるアパミンはやはりそのもの自身でイオンチャンネル形成能を有した。またMCDの全構成アミノ酸をD体に置換した光学異性体はGTP結合蛋白を活性化したが、これらの物質はLTPを誘導しなかった。へび毒デンドロトキシンはMCDと同じ脳内結合部位と結合し、かつLTPを誘導することができた。以上の結果はMCDの種々の活性のうち、脳内高親和性結合部位であるKーチャンネルへの結合がLTP誘導に必須であることを示している。しかし、LTPを誘導する全ての物質はGTP結合蛋白を活性化したのでGTP結合蛋白の活性化がLTP誘導に不要かどうか明かにすることはできなかった。
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