1.研究目的:小脳室頂核(FN)を電気刺激すると頻脈をともなった昇圧反応以外に、摂食行動の誘発や血中のバゾプレッシン(VP)濃度の変化などが起こるがそのメカニズムは不明である。そこで視床下部の摂食中枢(視床下部外側野、LHA)および神経分泌細胞を含む室傍核(PVN)に対するFNからの神経入力様式、およびPVNやLHAから密な投射を受けている迷走神経背側運動核(DMV)におけるVPの作用を神経生理学的方法を用いて検討した。 2.方法および実験結果:(1)FNからLHAおよびPVNニュ-ロンへの入力様式。麻酔下のラットを用いて、FN刺激に対するニュ-ロン応答をヒストグラムによって検討した。その結果、摂食行動の制御の重要な役割を果たしているLHAのブドウ糖感受性ニュ-ロンおよびPVN神経分泌ニュ-ロンに対し、FNから単シナプス性に抑制性入力があることが明らかになった。(2)DMVニュ-ロンに対するVPの作用。DMVを含むラット脳薄切片標本を作成し、潅流液中にVPおよびアンジオテンシンII(AII)を投与しそれらの効果を検討した。その結果、VPはV_1レセプタ-を介した直接作用によって、9割以上のDMVニュ-ロンを興奮させ、AIIは単独では半分以上のDMVニュ-ロンに対して無効であるが、VPによる興奮作用に対して抑制性修飾を行っていることが明らかになった。 3.考察:本研究の結果から、FNからの情報が視床下部のニュ-ロン到達し、さらに脳幹の自律神経核へ伝達される可能性が明らかになった。すなわち、小脳系情報が視床下部による摂食や飲水などの本能行動を始め、神経内分泌および自律神経系を介した生体のホメオスタシス調節に深く関与していることを示唆している。
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