運動の協調や姿勢の保持に重要な制御を行っている小脳が一方において血液循環調節に関与していることが示唆されている。これまでの我々の研究により、小脳虫部皮質に血液循環の制御に関与する小領域3ケ所の存在が明らかになった。更にこれらの部位が体血圧及び交感神経活動を抑制性に制御していることを明らかにした。しかし、これまでの研究はすべて麻酔下で行ったものであり、実際に目覚めた状態で行動しているときにどのように小脳が循環系を制御しているかは明かではない。本研究では上述の小脳血液循環中枢のひとつ、乗物酔いとか姿勢の制御に関係すると考えられているIX〜X小葉皮質外側部の循環中枢について、無麻酔動物ではどのように機能しているかを明らかにすることを目的とした。第一歩として除脳及び麻酔下のウサギを用いて腎交感神経活動及び体血圧、腎及び大腿動脈血流量を測定し、小脳血液循環中枢を電気刺激し、その刺激効果を比較検討した。その結果(1)麻酔下では小脳循環中枢の刺激により、腎交感神経活動の抑制、体血圧の降下及び、腎並びに大腿動脈血流量の一過性の増加後減少がみられた。刺激電流を800μAまで増加させても同一の反応を示し、その大きさが増した。(2)除脳ウサギでは同様の刺激により刺激電流が弱いときには麻酔下と同様の反応を示したが、100μA以上になると体血圧が上昇し、腎交感神経活動は一過性の抑制後著明な増加を示し、腎動脈血流量は減少した。一方大腿動脈血流量は血圧の上昇にしたがって増加した。すなわち麻酔下のウサギにおける小脳核刺激の効果と一致した。以上の結果より、除脳ウサギにおいては刺激に対する閾値が低下し、強い刺激により小脳核の刺激効果が優位になったと考えられ、無麻酔状態においても麻酔下と同様小脳虫部IX〜X小葉皮質プルキンエ細胞により腎交感神経活動及び体血圧は抑制性に制御されていると考えられる。
|