平成2年度の研究の目的として掲げた課題と、それに対する研究結果を以下にまとめる。 1 胸髄起始交叉性脊髄小脳路細胞(cーSCT)の同定: 前年度すでに、クラ-ク柱およびその周辺のSCT細胞は同側上行性であることを報告した。一方、Rexedの第V、VIII層のSCT細胞は対側上行性細胞であることが明かになった。 2 cーSCT細胞活動の呼吸運動に伴う動的応答の解析:190個のSCT細胞のうち20個が交叉性SCTであった。そのうち、11個が呼吸運動と関連したリズム活動を示した。そのうち7個が吸息相に、残りの4個が呼息相に活動が上昇した。前年度報告した同側上行性のSCTとの性質の違いは以下の様である。 1)非動化し人工呼吸に移行したとき、胸郭の動きとは関係なく、横隔神経活動、すなわち呼吸中枢リズムと一致した細胞活動を示した。 2)自発呼吸時と人工呼吸時との応答の差を比較することにより、2群に分類できた。第一群は、両状態で全く変化せず、呼吸中枢リズムのみが入力となっていた。第二群は、人工呼吸時に呼吸中枢リズムとともに、胸郭の動きに伴った活動の変化が見られた細胞群である。 3 中枢性入力と末梢性入力との相互作用:前記第二群での応答の特徴は、呼吸中枢の吸息相に活動が昂進する時、胸郭の拡張に対応して活動がたかまった。そのため、自発呼吸時は、両入力が拮抗するように作用して細胞のリズム活動ははっきりしなくなった。 4 以上の結果から、交叉性SCT細胞は呼吸運動の中枢性指令をモニタ-し、そのなかには、中枢性指令と実際におきている呼吸運動の末梢性情報を比較し小脳に伝達する系の存在が明らかになった。
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