1.体性感覚刺激による大脳皮質局所血流の変化:皮膚の種々の部位に加えた非侵害および侵害刺激が大脳皮質局所血流に及ぼす影響をウレタン麻酔下のラットを用いて検討した。大脳皮質血流の測定には、継時的測定が可能なレ-ザ-ドップラ-法を用いた。レ-ザ-ドップラ-法による脳血流測定の確実性については、絶対値の測定の可能な水素クリアランス法との間に有意な相関があることを確認した。非侵害刺激としては歯ブラシによる約1Hzのブラシ刺激、侵害刺激としては鉗子によるピンチ刺激を顔面、背部、前肢、後肢の皮膚に20秒間加えた。ブラシ刺激は皮膚血流に何等影響を起こさなかったが、ピンチ刺激は血流増加反応を起こした。血流増加反応は特に前肢及び後肢刺激で顕著であった。ピンチ刺激による大脳皮質血流の増加反応が血圧増加を伴ったので、血圧増加による二次的効果であるか否かを検討した。ピンチ刺激が血圧上昇反応を起こさせないようにするため、上部胸髄レベルで脊髄を切断した動物において、前肢ピンチ刺激を行ったところ、血圧増加反応は認められなかったにも関わらず、皮質血流の増大が認められた。以上の事実から体性感覚刺激による脳血流の増加は血圧の二次的反応ではないことが明かとなった。 2.体性感覚刺激による大脳皮質局所代謝の変化:体性感覚刺激による大脳皮質血流増加反応が脳代謝の変化を介する反応であるか否かを麻酔ラットを用いて検討した。後肢のピンチ刺激により皮質血流の増加反応が認められた状態において、同部位の代謝産物である乳酸の変化を測定したところ、乳酸量には全く変動が認められなかった。以上のことから、体性感覚刺激による大脳皮質血流増加反応は代謝の変化を介するものではないことが明かとなった。
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