新生児ラットより大脳グリア細胞を培養し、シスチンとグルタミン酸の輸送を調べた。グルタミン酸は、大部分、グルタミン酸・アスパラギン酸輸送系(X^ー_<AG>)で取りこまれ、シスチン・グルタミン酸交換輸送系(χ^ー_c)による部分は小さかった。しかし、χ^ー_c系はシスチン取りこみを媒介する唯一の系で、取りこまれたシスチンは還元されてシステインとなり、タンパク合成やグルタチオン合成の前駆体となる。グリア細胞のχ^ー_c系はこの細胞のグルタチオンを維持するのに大きく寄与していることが示された。また、ラットのグリア由来の脳腫瘍細胞株C6で調べると、X^ー_<AG>活性はグリア細胞に比べ著しく低下し、χ^ー_c系の活性はグリア細胞の10倍近くに上昇していることも判明した。 一方、胎生16日のラット大脳から細胞を取りだし、培養系で分化させχ^ー_c系の活性を調べた。取りだしたばかりの未分化大脳細胞は一定のシスチン取りこみ活性(χ^ー_c系による)を示したが、培養系で神経細胞とグリア細胞に分化するにつれ、この輸送活性は細胞全体としては数倍に上昇することが認められた。分化した神経細胞とグリア細胞を分離して調べると、グリア細胞では活性が高く、神経細胞では逆に活性が低かった。神経細胞はグリア細胞と共存していればグルタチオンを維持できるが、グリア細胞から離されると、シスチン取りこみ活性が低いため、グルタチオンを維持できないことが分った。すなわち、グリア細胞はχ^ー_c系によりシスチンを取りこみ、システインに還元してグルタチオン合成などに利用するが、一部のシステインを細胞外に放出し、それを神経細胞が中性アミノ酸輸送系で取りこみ、自らのグルタチオン合成に利用していると推定された。
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