哺乳動物の種種の臓器の細胞内には、タンパク質構造が全く異なった2種類のホスホリパ-ゼA_2(PLA_2)アイソザイムが存在する。1つは膵臓から分泌されるPLA_2に極めて類似した酵素でI群PLA_2と呼ばれる。もう1つのアイソザイムはマムシ毒PLA_2に類似しておりII群PLA_2と呼ばれる。本研究においては、胃、小腸、大腸、肝臓等の消化管系臓器に存在するPLA_2アイソザイムを、酵素化学的、免疫化学的、分子生物化学的手法を用いて同定し、さらに炎症性疾患とPLA_2アイソザイムとの関連を明らかにすることを目的とした。得られた結果を以下に記す。 1.ラットのI群PLA_2cDNAをプロ-ブに用いて胃粘膜mRNAのノ-ザンブロット分析を行ったところ、強陽性を示すmRNAが存在することが確認された。次に胃粘膜cDNAライブラリ-からI群PLA_2cDNAをクロ-ニングし、その塩基配列を決定した。その配列は膵臓PLA_2のそれと一致した。つまり胃粘膜にはI群PLA_2が存在する。 2.ラットのII群PLA_2cDNAをPCR法等を用いてクロ-ニングし、その塩基配列を決定した。II群PLA_2は小腸粘膜に存在する。 3.抗I群PLA_2抗体および抗II群PLA_2抗体を用いて免疫組織化学的研究を行い、I群PLA_2は胃粘膜の主細胞に、II群PLA_2は小腸粘膜のパネット細胞、肝臓のクッパ-細胞、脾臓の単核球/マクロファ-ジに局在することを明らかにしている。 4.ラットにBCGとリポ多糖を投与すると、肝臓組織にII群PLA_2が誘導されることを明らかにした。つまり炎症性メディエイタ-による炎症の発生機序にII群PLA_2が深く関わっていることが示唆された。 今後II群PLA_2と病態との関わりをさらに追求する必要がある。
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