複合体II(コハク酸ーユビキノン酸化還元酵素)はTCA回路の酵素中唯一の膜結合性酵素であり、同時に呼吸鎖電子伝達系の初発酵素として機能している。しかし回虫など嫌気的エネルギ-代謝を行う生物においては逆反応のフマル酸還元酵素を示し、NADHーフマル酸還元系の末端酸化酵素として機能している。申請者はこれまでにこの複合体IIにおける反応の方向性の決定要因のひとつが構成成分のシトクロムbにある事を明らかにしてきたが、平成2年度はこの点をより詳細に調べる目的で研究を行い、以下の結果を得た。 各サブユニットからの複合体IIの再構成についてはコハク酸ーユビキノン酸化還元活性(SDH)を持つウシ心筋複合体IIとそれに加えてフマル酸還元活性(FRD)を持つ回虫複合体IIより各々のサブユニットを分離し、相互の再構成を試みた。ウシ心筋の酵素に関しては再構成能を保持した状態で分離することができたが、回虫筋の酵素は非常にサブユニット間の相互作用が強く、全てのサブユニットを解離すると再構成能は失われてしまっていた。そこで遣伝子の全塩基配列が判っている大腸菌のコハク酸ーユビキノン酸化還元酵素複合体の遣伝子(sdh)を制限酵素により分割し、同一細胞内で共存可能なpACYCおよびpUCの2種のプラナミドに挿入し、in vivoでの再構成を試みた。この結果細胞質膜に局在し正常な酵素肝性を示す複合体IIの再構成に成功した。これは活性発現と酵素反応の方向性の決定に関与する各サブユニットの役割を明確にするための系を確立できたという事であり、今後この再構成系の果たす役割は複合体IIの生合成の問題なども含め、極めて大きいと考えられる。またカナマイシン耐性遣伝子をsdh c領域に挿入した実験から複合体IIの生合成にsdh C遣伝子が不可欠である点が明らかになった。さらに回虫シトクロムb_<558>の酸化還元電位を測定し、哺乳類より高い車を見出した。
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