酵素反応機構解明における遺伝子操作法の有用性を探るために、遺伝子操作法と、X線結晶解析を含めた物理化学的方法を併用して、大腸菌アスパラギン酸トランスアミナ-ゼの酵素反応機構を解析した。 1.酵素の量産化とX線結晶解析: 酵素量産化プラスミドを作製後、X線結晶解析で酵素の立体構造を決定した(大阪市立大学理学部 樋口泰一、広津建博士らとの共同研究)。 2.酵素反応過程の解析: 活性部位に存在する補酵素(ピリドキサ-ルリン酸)の吸収帯が可視波長領域に存在し、反応中間体によって異なったスペクトルを与える。この分光学的特性を利用して、野生型酵素と基質の反応をストップフロ-法で解析し、反応過程が速い基質結合過程と遅い分子内律速過程の2つの反応過程から成る事を明らかにした。 次に、活性部位に存在するアミノ酸残基を置換して、約50種類の変異型酵素を作製し、得られた変異型酵素の反応過程を野生型酵素と比較して、各残基の役割を解析した。 2ー1.基質結合過程: 速い基質結合過程にはArg292、Arg386、Lys258、Tyr70、Trp140等の関与がみられた。とくに、基質のαーおよびωー COO^ーとそれぞれ静電的相互作用をしているArg386、Arg292を種々のアミノ酸残基に置換して、基質認識機構を解析したところ、次の事が明らかになった。 (1)COO^ーの認識にはArgが必須で、Lysでは代用できない。 (2)Arg292の置換によって基質特異性が変換できる。 (3)親水性基質用と疎水性基質用の2つの基質結合ポケットがある。 2ー2.律速過程: 律速過程におけるLys258、Asp222、Tyr225等の関与が明らかになった。また、変異型酵素によっては、反応中間体が検出され、アミノ酸残基の各反応素過程への関与を示唆する結果も得られた。
|