研究概要 |
60数種の存在が知られているリソゾ-ムマトリックス酵素群は、その糖鎖上にマンノ-ス6リン酸の標識を獲得することによって生合成後細胞内を転送され、リソゾ-ムに局在化することが可能となる。糖鎖のリン酸化はゴルジ膜に存在するUDP-GlcNAc:リソゾ-ム酵素GlcNAclリン酸転移酵素(GPTFと略す)によって触媒されるが、マンノ-ス6リン酸残基が移送標識として機能するには同じゴルジ膜に存在するGlcNAcホスホジエステルα-N-アセチルグルコサミダ-ゼによるGlcNAcの除去が必要である。ムコリピド-シスII型ではGPTF活性が欠損しており、III型では部分的に観測される。これら病態における活性不全の要因は未だ解明されていない。その原因の一つはGPTFの精製の困難さと本酵素の蛋白化学的性状の未解析にある。本酵素活性の測定には[β-^<32>P]UDP-GlcNAcの合成が必須であり、このことも上記解析を困難にしている。 本研究課題である、GPTFの性状はおもにラット肝酵素で明らかにした。本酵素はゴルジ膜を組織より分画した後精製するか、ヒト臓器(おもに肝臓)はおもに剖検より得ることが多く、組織の新鮮さに欠けるためか本酵素の回収率はきわめて低かった。現在ヒト肝より部分精製した酵素標品を用いてモノクロ-ナル抗体を作製中である。また、従来本酵素はリンパ球系細胞で高活性を示すことが知られていたが、ALL細胞では更に高値を示した。同様に、正常ヒト果粒球に比べてAML細胞でも高値を示し、癌におけるリソゾ-ム酵素の細胞内代謝回転の亢進を裏づけた(Blood,1989)。同様の現象はヒト肝細胞癌組織でも観測された(J.Natl.Cancer Inst.,投稿中)。 ムコリピド-シスIIとIII型の診断では、従来患者皮膚培養繊維芽細胞あるいは白血球で行ってきたが、絨毛上皮でも可能なことが明らかになった。
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