オルニチン脱炭酸酵素は哺乳動物の酸素の中で最も代謝回転の速い酵素として知られており、その急激な活性変動の機構はたいへん興味深い。酵素活性の変動は、酵素蛋白質の量的な変動か或いは酵素蛋白質の活性化や不活性化の質的な変動によって起こると思われる。私はオルニチン脱炭酸酵素の活性変動の速さから察して、後者の酵素の活性化、不活性化の機構が重要と考え研究を進め、オルニチン脱炭酸酵素の活性に強く影響する生体因子としてポリアニオンや燐脂質を報告しその作用機構について研究した。またオルニチン脱炭酸酵素の特異的な活性阻害蛋白質であるアンチザイムを精製しその阻害様式などについても報告した。本研究ではアンチザイムの活性を特異的に抑制するアンチザイムインヒビタ-を、アンチザイムのアフィニティ-クロマトを用いることによって、ラットの肝臓から1700万倍という高倍率で精製しその性質を研究し、オルニチン脱炭酸酵素の生体内調節系の1つとしてアンチザイム/アンチザイムインヒビタ-系があることを示した。また、オルニチン脱炭酸酵素の特異抗体を用いて、アンドロゲン投与してオルニチン脱炭酸酵素活性を約6倍上昇させたマウス腎臓の酵素蛋白量が、アンドロゲン投与していない対照マウスのそれと同じであることを示し、アンドロゲン投与によるオルニチン脱炭酸酵素活性の上昇が、酵素蛋白量の増加によるのではなく酵素の活性化によるものであることを明らかにした。オルニチン脱炭酸酵素の活性が細胞の様々な環境変化や、種々の刺激に応じて著明に変動することから、細胞情報伝達系の働きと酵素活性変動との関連を調べる目的で、セカンドメッセンジャ-応答性の多機能性蛋白質燐酸化酵素による酵素の活性化について検討したが、積極的な結果が得られなかった。今後は、酵素のmRNA量、蛋白量、活性を測定しながら、より総合的に調節機構の研究を進めて行きたいと考えている。
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