老人性白内障の水晶体では黄色ないしは褐色物質が高濃度に蓄積することが知られているが、これらの物質の本体はいまだ不明である。私たちはこれらの物質がトリプトファンの誘導体である3-ヒドロキシキヌレニンとその二分子縮合体のキサントマチンであることを示唆するデ-タを得てきたが本年度はそのことをさらに解明するために次のような研究計画をたて実験を行い一定の成果を得た。 1).白内障水晶体の褐色物質の同定;老人性白内障の水晶体から黄色ないしは褐色物質を抽出することは多くの研究者の努力にもかかわらず、成功していない。私たちはまずこれらの化合物の抽出条件を詳しく検討した。その結果、老人性白内障患者より得た水晶体を凍結乾燥処理したのち、塩酸処理して水晶体の蛋白質を変性させ、さらに蛋白質分解酵素を作用させると、効率良く上記化合物が抽出されることが明らかになった。このような処理方法によって得られる化合物をさらに薄層クロマトグラフィや高速液体クロマトフラフィで分析した結果、3-ヒドロキシキヌレニンやキサントマチンであろうことが示唆された。現在、高速液体クロマトグラフィでこれらの化合物をさらに多量に精製し、その構造推定までもって行きたいと考えている。 2).種々のオルトアミノフェノ-ル誘導体による水晶体不溶性蛋白質の着色現象について;軽度白内障患者より得た水晶体をホモジェナイズして得られる不溶性蛋白質にオルトアミノフェノ-ルおよび種々のオルトアミノフェノ-ル誘導体(3-ヒドロキシキヌレニン等)を添加し、さらに紫外線を照射することにより、種々の褐色物質をえることに成功した。これらの化合物の吸収スペクトルは積分球装着分光度計で測定した。この研究成果は金沢で開催された日米白内障会議(1989年11月)で発表した。
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