LECラットは、何らかの遺伝的な代謝異常をきたし、生後3〜4ヵ月でヒト劇症肝炎に類似した黄疸を伴った症状を呈し死亡する。長期生存例には高頻度で肝癌を自然発症する。我々はLECの自然発癌過程における薬物代謝酵素の発現と化学発癌過程におけるそれとの相異を比較することにより発症のメカニズムを明らかにしようとしてきた。現在までに、肝炎発症以前すでに肝ミクロソ-ムのシトクロムPー450含有量は著明に減少しており、一方、抱合系酵素(γGTP、GSTなど)は増加していた。このようにLECラットの肝薬物代謝系酵素は、化学発癌過程でみられる前癌病変での酵素偏倚と極めて類似していることから、生化学的にもLECラットは肝癌の素因を生まれながらに有していることが明らかになった。また、これらの酵素の遺伝子レベルでの発現をみると4週令で発現上昇、8週令で発現低下、そして16週令で発現上昇という2相性のパタ-ンを示した。さらに、これらの遺伝子の発現はDNAメチルトランスフェラ-ゼ遺伝子発現パタ-ンとよく一致しており、LECラットの肝発癌機序にDNAのメチル化が強く関与していると思われた。実際、肝炎肝癌発症時には肝DNAメチル化の程度は有意に低下しており、5ーアザシチジンに対する感受性は対照(LEA)ラットよりも高かった。そこで次に、コリン欠乏食やメチオニン代謝阻害薬投与による肝炎の発症の影響を検討したところ、早期に肝炎を誘発できまた酵素の発現も自然発症時と類似したパタ-ンを示した。以上の結果より、肝薬物代謝酵素の変動は、低メチル化による遺伝子発現異常によると思われた。また、肝炎肝癌自然発症は、メチオニン代謝障害による低メチル化と深く関連していることが強く示唆された。
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