中間径フィラメントは、細胞の起源を決める際に、上皮性、非上皮性、筋肉、神経細胞などのマ-カ-として広く用いられている。本年度は、腫瘍診断などに用いる場合問題となる、固定によるケラチンの抗原性の変化に付いて検討した。ケラチンは上皮細胞のマ-カ-として非常に広く用いられているが、少なくとも19種類の分子量の異なるケラチンが存在することが知られている。ケラチンに対する多くの抗体が市販されているが、これまでの免疫組織化学的な検討の多くは、この様なケラチンやそれに対する抗体の多様性や、固定による抗原性の変化に付いて考慮していないものが多い。そこで、28種類のケラチンに対する抗体を用いて、固定の影響とホルマリン固定組織における蛋白分解酵素によるケラチンの抗原性の再活性化に付いて免疫組織化学的検討を加えた。その結果、ほとんどのケラチン蛋白の抗原性はアセトン固定組織に比べるとホルマリン固定組織では大幅に低下しており、後者を用いた免疫染色では、ケラチンの組織内分布を正しく把握できないことを示した。またホルマリン固定組織に蛋白分解酵素処理をするとケラチンの染色性の回復がみられるが、アセトン固定組織に匹敵するとこまで回復することは稀であり、抗体によっては、同処理により染色性が低下するものもあって、必ずしも一定した結果は得られないことが判明した。また、消化管の内分泌腫瘍における中間径フィラメントの発現を見たところ、カルチノイドでは低分子ケラチン78%、ヴィエメンチン78%、ニュ-ロフィラメント70%、内分泌細胞癌では低分子ケラチン100%、ヴィメンチン33%、ニュ-ロフィラメント33%であり、これらの腫瘍においては複数の中間径フィラメントがかなり高率に発現されていることが明らかになった。以上の結果は、中間径フィラメントを組織特異マ-カ-として用いる場合、慎重な解釈が必要であることを明らかにした。
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