中間径フィラメントは、細胞の起源を決める際に、上皮性、非上皮性、筋肉、神経細胞などのマ-カ-として広く用いられている。その中で、上皮細胞のマ-カ-として広く用いられているケラチンには、少なくとも19種類の分子量の異なる亜型が存在することが知られている。ケラチンに対する多くの抗体が市販されているが、これまでの免疫組織化学的な検討の多くは、この様なケラチンやそれに対する抗体の多様性や、固定による抗原性の変化について考慮していないものが多い。そこで、28種類のケラチンに対する抗体を用いて、固定の影響とホルマリン固定組織における蛋白分解酵素によるケラチンの抗原性の再活性化について免疫組織化学的検討を加えた。その結果、ほとんどのケラチン蛋白の抗原性はアセトン固定組織に比べるとホルマリン固定組織では大幅に低下しており、後者を用いた免疫染色では偽陰性となる可能性が高いことを示した。ホルマリン固定組織に蛋白分解酵素処理をするとケラチンの染色性の回復がみられるが、アセトン固定組織に匹敵するところまで回復することは稀であり、抗体によっては、同処理により染色性が低下するものもあって、必ずしも一定した結果は得られなかった。また、腫瘍診断への応用として、消化管の内分泌腫瘍における中間径フィラメントの発現を検討したところ、多数例で複数のフィラメント蛋白が同一腫瘍内に発現しており、中間径フィラメントを細胞特異マ-カ-として用いる場合、慎重な解釈が必要であることが判明した。さらに、組織発生の不明な胞巣状軟部肉腫と巨細胞線維芽細胞腫の起源を明らかとするために、中間径フィラメントや、その他の特異マ-カ-の免疫染色を行ったところ、前者は筋原性であり、後者は筋線維芽細胞由来であることが示された。以上、中間径フィラメントを腫瘍マ-カ-として用いる場合には、方法や結果の解釈に十分注意を払う必要があることを明らかにした。
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