われわれはこれまでマウス形質細胞腫に線維芽細胞を融合すると、特異的染色体転座により免疫グロブリンCα遺伝子と組買換えを起した再編成cーmycの高い発現が抑制されることを報告してきた。平成元年度〜2年度では、この再編成cーmycの発現抑制が線維芽細胞以外の種々の組織由来の細胞との融合でも認められるか否かを検討し、さらにこれらの雑種細胞における再編成cーmycの発現抑制の分子機構を知ることを目的とした。マウス形質細胞腫にT細胞リンパ腫あるいは奇形腫を融合とた雑種細胞でも再編成cーmycは遺伝子の存在にも拘らずその発現が抑制されることが判明した。この抑制が遺伝子のメチル化による可能性を雑種細胞DNAのMspI/HpaII制限酵素消化バンドパタ-ンのSouthernによる比較、5ーAzacytidine処理後のRNAのNorthern法による分析で検討したが、メチル化の物与は否定的であった。雑種細胞における再編成cーmycの発現抑制が転写後レベルあるいは転写レベルによるものかをそれぞれcycloHeximide処理細胞のRNAによるNorthern法とrunーon assayで検索したところ、抑制は主に転写レベルで起こっていることが明らかとなった。マウス形質細胞腫では再編成cーmycのDNase I感受性は非再編成cーmycに比し高かったが、この高感受性は線維芽細胞あるいはT細胞リンパ腫を融合すると非再編成cーmycと同レベルまで低下した。この遺伝子のDNase Iの感受性の低下はこの遺伝子の転写レベルと平行していた。最近、Cα遺伝子の3^´側にはoctamer配列をもつ組織特異的enhancerの存在が報告され、これに結合するB細胞特異的転写因子Octー2蛋白は線維芽細胞の融合により消失することが明らかとなった。従って、マウス形質細胞腫にNonーB細胞を融合した時に起こる再編成cーmycの抑制はOctー2の抑制を介して起こること、NonーB細胞にはOctー2の発現を抑制する因子の存在することが推測された。
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