クロイツフェルト・ヤコブ病(以下CJDと略す)は、原因不明の伝染性疾患で、脳に海綿状脳症をひきおこすスロ-ウィルス疾患と考えられている。CJDの原因物質の1つとしてアミロイド蛋白(プリオン蛋白)が提唱されており、我々を中心にCJDで出現するクル斑がプリオン蛋白より構成されることを報告してきた。このプリオン蛋白を定量するため、我々は、新たに高力価のプリオン蛋白抗体を作製し、免疫学的定量法を開発した。まず高純度に精製されたプリオン蛋白を得るため、昨年度報告した抽出法(Am.J.Pathol.131:435-443、1988)をより進め、電気泳動を行った後ゲルから蛋白を抽出し、さらにHPLCを用いて純化したものを精製プリオン蛋白として用いた。また、プリオン蛋白分画は高い感染性を同時に有するため、感染力価を消失させる目的で、SDS存在下で煮沸処理を行った。SDSの存在は、それ自身で免疫反応を阻害するため、測定法にはまずWestern blot法を用いて、余分のSDSを試料から除いた。Western blotは、順に希釈した試料を電気泳動し、免疫反応により陽性所見の得られる最少組織重量よりプリオン蛋白濃度をもとめた。まず、精製プリオン蛋白を用いて、我々の実験系の感度を検討すると、最低300pgのプリオン蛋白が、1つの陽性反応バンドを得るために必要であることが明らかとなった。そこで、CJD感染マウスの各種臓器を用いて、プリオン蛋白濃度を調べた結果、大脳には30μg/g湿重量、脊髄3μg/g、脾臓3-10μg/g、リンパ節3μg/g、胸腺1μg/g、小腸0.3ー1μg/gと広くプリオン蛋白が分布していることが明らかとなった。今後さらに高感度のプリオン蛋白検出法を検討してゆく予定である。また、これらの結果は、研究発表として以下の論文にまとめた。
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