これまで進めてきた弱毒性ネズミマラリア原虫Plasmodium berghei XAT株をもちいての防御免疫機構の研究を本年度は好中球の役割に焦点を絞って行った。 好中球は細菌感染に対して一次的な防御作用を示す顆粒球としてその機能が知られている。最近幹細胞より好中球への分裂・分化を誘導する顆粒球コロニ-刺激因子(GーCSF)の遺伝子がクロ-ニングされ、リコンビナントヒトGーCSFの臨床応用が進められている。本研究ではrhGーCSFをマウスのマラリア感染の系に応用し感染防御における好中球の役割について検討した。マウスにマラリア原虫を接種した後、rhGーCSFを投与し感染への影響を調べた。また抗原虫血清、抗TNFーα抗体、抗IFNーγ抗体を同時に投与し、これらの因子の機能についても調べた。rhGーCSF投与マウスでは末梢血中の好中球の数が対照マウスの5倍に増加した。感染マウスへの投与により感染初期の原虫寄生率が有意的に低下した。しかしリンパ球を全く持たないSCIDマウスではこの効果が認められなかった。この原虫増殖の抑制は抗TNFーαおよび抗IFNーγ抗体それぞれ単独投与で阻止された。一方SCIDマウスにrhGーCSFと抗血清を同時投与すると原虫血症の抑制が強まった。しかしながら脾臓を摘出したマウスでは好中球による感染抑制作用が全く認められなかった。以上の結果より好中球がマラリア感染において一定の防御作用を担うことが証明された。この好中球の作用は抗体依存性であり、またIFNーγやTNFーαのサイトカインによって活性化される必要性が認められた。好中球による原虫処理は脾臓にて行われ、その機構は末梢血中に赤血球内壊死原虫(crisis form)が現れることから貪食作用のほかに原虫壊死因子(CFF)の放出が示唆された。
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