研究概要 |
本研究では、糞線虫体内のアラキドン酸カスケ-ドに関する分析を可能にするために、in vitroでの侵入モデルの樹立した。まずS.mansoniセルカリアに用いられている脂肪酸と虫体を含む緩衝液とを接触させ、脂肪酸への移行をみる方法(Salafsky et al.)および人工膜(0.1% agar&3% gelatin)を用いた方法(Fusco et al.)を試みた。セルカリアと異なり、水中のフィラリア型幼虫は温度変化による一過性の動きを示すのみで、脂肪酸や人工膜への移行を示さなかった。 このため6well-multidish(Nunc)を用い、3mlの0.5-1.0%寒天(0.1M燐酸緩衝液)上に,約100匹のフィライア型幼虫(10ul燐酸緩衝液)を加え、37Cでincubateした。寒天は実験開始直前に、ethyl alcoholに溶解した各種脂肪酸(0.05-0.8M)または、ethyl alcoholを添加して調整した。incubation後,直ちに虫体の移動を阻止するために冷却し、燐酸緩衝液で寒天上の虫体を取り除いた。そして、侵入虫体を熱固定するためにmultidishを70C、3分処理した。この実験系では寒天濃度が薄いほど、incubation時間が長くなるほど寒天に侵入する虫体数は増加した。また、アラキドン酸カスケ-ドに寄生虫体内で合成可能なリノ-ル酸、リノレイン酸は寒天への侵入を促進したが、非必須脂肪酸であるオレイン酸では促進しなかった。これらの結果は、糞線虫の皮膚侵入機構にアラキドン酸カスケ-ドの関与を示唆するものである。現在、in vivoでの実験および虫体内のアラキドン酸カスケ-ドの関与する脂肪酸の測定を行っている。
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