当初の計画に従い、本年度は回虫生活史における各発育段階の虫体のうちまず第2期幼虫の呼吸系を解析し成虫の系と比較した。1.当研究室で確立された方法で調製した第2期幼虫のミトコンドリア(Mt)呼吸鎖の酵素活性を測定すると、好気的コハク酸酸化系の末端酵素であるシトクロムC酸化酵素の比活性は成虫の10倍以上であった。また、分光学的解析の結果、A型シトクロムや主鎖のB型シトクロムの相対含量が成虫と比較して多いことが明らかとなった。今後、成虫および2期幼虫Mtのシトクロム成分の酸化還元電位を測定比較する予定である。2.好気および嫌気的呼吸鎖の活性変動のもう一つの指標としてコハク酸CoQ還元活性とフマル酸還元活性の比(SPH/FRD)を測定すると、その値は約1となり回虫成虫と中心筋Mtの中間の値であった。3.呼吸鎖複合体の各サブユニットの成虫および幼虫酵素間の相同性、類似性を免疫化学および蛋白化学的に明らかにする目的で回虫成虫筋Mtの複合体IIの4つのサブユニット(F_p、I_p、C_yb_s、C_yb_L)をBiogel P-60で分離・精製した。本年度は比較の対象となる成虫酵素のF_pサブユニットのフラビン結合部位周辺の一次構造を決定し、既報の中心筋・大腸菌両酵素のフラビン結合部位の配列と比較したところ非常に高い類似性がみられた。とくに大腸菌酵素で知られているフラビンFADのAMP部分と相互作用する領域の配列と高い類似性を示す配列が回虫F_pにおいても見い出された。この領域の存在はMt酵素としては初めて報告されたものであり、その機能上の重要性が示唆された。精製した成虫酵素の各サブユニットに対する特異抗体を用いて成虫と幼虫酵素の免疫化学的相違について現在検討中である。4.2期幼虫Mtのキノンについては、成虫筋Mtとは異なりユビキノンとロドキノンの両キノンを含み、含量はユビキノンの方が多いことが明らかとなった。
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