研究概要 |
初年度(平成元年度)は回虫第2期幼虫ミトコンドリア(Mt)呼吸鎖の定量的解析を行なったが,本年度はその成果をふまえて第3期以降の幼虫の呼吸鎖成分を解析した。1)培養して得られた第17培養日幼虫(17DIC,第3期幼虫に相当)と第35培養日幼虫(35DIC,第3と4期幼虫の混合)からMtを調製し,コハク酸酸化系とNADHーフマル酸還元系のそれぞれの末端酵素であるシトクロムC酸化酵素とフマル酸還元酵素の活性を測定したところ,前者は発育につれてその比活性が減少するのに対して後者は増加した。またコハク酸脱水素酵素(SDH)とフマル酸還元酵素(FRD)の比活性の比は第2期,17DIC,35DIC,成虫でそれぞれ0.87,0.29,0.18,0.33の値が得られた。これらの結果から第2期幼虫がもっと好気的であり,発育につれて嫌気的呼吸の割合が大きくなることが明らかとなった。2)初年度で調製した成虫ComplexIIの各サブユニット(Fp,Ip,Cyb_L,Cyb_S)に対する抗体を用いて、幼虫Mt ComplexIIのサブユニット構成を免疫ブロッテングでしらべると,2期,17DIC,35DIC,の幼虫ともに成虫Fpの電気泳動上の移動度と同じ位置に交差反応するbandがみられた。その発色強度をデンシトメ-タ-で定量したところ単位蛋白当りの発色強度(比発色度)は幼虫,成虫間でほぼ一定であった。これに対して抗Cybs抗体の場合は同様に成虫と同じ位置に交差反応を示すが,その比発色度は2期幼虫でもっとも小さく,17DIC,35DIC,で増加した。すなわち,回虫ComplexIIのサブユニット組成は発育につれて変化することが明らかとなった。3)幼虫期と成虫期の呼吸鎖のシトクロム成分の性質を比較する目的でまず成虫Mtのシトクロム成分の酸化還元電位を測定したところ,シトクロムb_<558>の値はComplexII,Mt中でそれぞれー34mV,ー54mVの値が得られ,牛心筋の値に比べて高いのに対してComplexIIIのb_<560>,C+C_1の値は牛心筋とほぼ同じであり、回虫ComplexIIのユニ-クな特徴が明らかになった。
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