研究概要 |
本研究はヒト赤痢アメ-バ症の伝播における犬猫の関与を検討するため、施設に収容された犬猫各100頭に、本症検出のための寄生虫学的・病理学的検査を行い、免疫学的診断法を確立することを目標とした。埼玉県収容のイヌ142頭とネコ144頭、神奈川県収容のネコ96頭、計382頭に赤痢アメ-バ原虫の検出を行った結果、通常の寄生虫学的・病理学的検査では本原虫感染は確認できなかった。赤痢アメ-バ症は感染が不顕性に経過する例が多いため、検出感度の高い免疫診断法として、enzyme-linked immunosorbent assay(ELISA)の応用を検討した。ELISAにおける明確な陽性反応を得るため、イヌに本原虫を免疫して、まず陽性血清を得た。次に抗原について、陽性血清を用いて市販抗原(仏国、Virion社製)と評価の定まっている培養抗原(HK-9株)をOuchterlony法で比較し、市販抗原の有用性を確認した。市販抗原と陽性血清を用いてELISAの条件決定を行い、抗原濃度5μg/ml、血清希釈1:100、標識抗体希釈1:3,000の最適条件を得た。また本ELISAにおける交差反応性について、Toxoplasma,lsospora等の原虫、Ancylostoma,Dirofilaria,Toxocara,Trichuris,Dipylidium等の蠕虫が陽性の検体について検討した結果、OD(415nm)値はほとんどが0.05以下で、本赤痢アメ-バ抗原の特異性は高いことが判明した。上記382検体についてELISAを行った結果、反応の確実なOD値が1.0以上の強陽性はイヌ1例(0.7%)、ネコ5例(2.1%)であった。赤痢アメ-バに対する特異性を更に検討するために、強陽性例について本原虫の感染の明確なヒト血清を陽性対照としてOuchterlony法を行い、ネコの1例については沈降線が認められた。他の5例とOD値が0.5前後のイヌ2例、ネコ6例の弱陽性群については更に詳細に検討する予定である。以上のように、本研究により、初めて犬猫の本原虫感染を血清学的に証明することができた。これらの研究成果は、わが国の赤痢アメ-バ症の疫学に多大の貢献をすると共に犬猫の飼養における本原虫に対する注意を喚起するものである。また研究申請時に述べたように今後全国レベルでの調査が必要と考える。尚、本研究によって初めて得られた犬猫の赤痢アメ-バ症のELISA法の確立と血清疫学成績は2編に分け論文発表の予定である。
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