腸炎ビブリオの所有する耐熱性溶血毒遺伝子(tdh)4種および類似遺伝子(trh)と他の3種のビブリオ属細菌の所有する3種のtdh遺伝子の合計8種類の遺伝子の塩基配列から推定したアミノ酸配列を比較し、類似性の高い領域を選出した。これらの領域内のアミノ酸残基1個をsite-directed mutagenesis法によって置換した。腸炎ビブリオのtdh2遺伝子をM13mp18にクロ-ン化し、合成オリゴヌクレオチドを用いてKunkel法により変異遺伝子を作成し、大腸菌中で発現させた。抗TDH血清を用いたbead-ELISA法で調べたところ、野生型の遺伝子を大腸菌中で発現させた場合と毒素の産生量はほぼ同じであった。変異毒素および野生型毒素を含む大腸菌抽出液の家兎赤血球に対する溶血活性を比較した。17種類の変異毒素のうち、N末端から65番目のトリプシンをヒスチジンに置換した変異毒素と66番目のロイシンをセリンに置換した変異毒素は野生型毒素に比べ溶血活性が350〜375倍低下していた。これに対し他の変異毒素の比活性は0.2〜6.7倍であった。したがって、65番目のトリプシン残基と66番目のロイシン残基を含む領域が、耐熱性溶血毒および類似毒素の溶血活性の活性中心である可能性が示唆れた。この領域は、疎水性-親水性プロット上では、2つの疎水性領域にはさまれたやや親水性のある部分であり、β-sheet構造を形成すると予想される。 今後はtdh以外の類似遺伝子(trh遺伝子や腸炎ビブリオ以外の他のビブリオ属細菌由来のtdh遺伝子)を用いて65番目と66番目のアミノ酸残基を置換し、同様な活性低下が見られることを確認するとともに、これら2残基が毒素の溶血作用にどのように関与しているかを明らかにしたい。
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