ビブリオ属の細菌には1つの細胞に極単毛と側毛の2種の鞭毛を持つものがあるが、数種のビブリオからのこの2種の鞭毛を分離しタンパク化学および免疫学的研究を行った。得られた鞭毛構成タンパク(フラジェリン)をSDSーPAGEで検討すると、極単毛については検討したビブリオではいずれも42kDと44kDの2種のタンパクが存在しており、ポリクロ-ナル抗体で検討した場合には両者は免疫学的にほぼ均一であることを明かになった。また、MonoーQイオン交換カラム処理によって両者を分離することができ、それぞれ独立に重合して鞭毛繊維を再構成し得ることが示された。さらに、モノクロ-ル抗体を調製すると両者を認識するクロ-ン以外に一方のみしか認識しないクロ-ンが得られ、特異的なエピト-プの存在が示唆された。側毛についてはほとんどの株で1種の分子サイズのフラジェリンしか得られなかったが、Vibrio alginolyticusの1株で29kDと31kDの2種の分子サイズのフラジェリンの存在が認められ、他の菌種、菌株についても種々の条件での検討が必要であると思われた。各フラジェリンのN末端アミノ酸を約20残基解析すると、極単毛については2つのグル-プに分けられ、一方は他のグル-プの12番目からの配列に類似していた。しかし、1例を除いては、同じ菌株の42kDと44kDは類似しており、分子サイズの違いをN末の相違で説明することはできなかった。側毛については各種とも類似性が強かった。極単毛と側毛を比較すると、20残基中6〜8残基が一致している程度であまり類似度は高くなく、分類学的にかなり離れた細菌であるサルモネラや大腸菌の鞭毛との類似度と差がなかった。すなわち、側毛と極単毛は共通の遺伝子から出発したと思われるが、それぞれ独立に進化して現在の姿になったものと思われる。
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