ビブリオ属の細菌には、同一細胞上に2種の抗原性の異なった鞭毛(極単毛の側毛)を持つものがある。腸炎ビブリオの鞭毛遺伝子をプロ-ブとしてハイブリダイゼ-ションを行ない、DNAレベルで極単毛は全ての種に共通性を見出した。また側毛は極単毛に比べると免疫学的には種特異性が高いが、DNAプロ-ブを用いて検討すると、免疫学的には交差性のない種間でも相同性が認められた。しかしながら、形態的に側毛を持たない種では側毛のDNAプロ-ブの反応が見られず、これらは側毛の遺伝子そのものを持たないものであると判断された。また、数種のビブリオからこの2種の鞭毛を分離しタンパク化学および免疫学的研究を行った。得られた鞭毛構成タンパク(フラジェリン)をSDSーPAGEで検討すると、極単毛については検討したビブリオではいずれも42kDと44kDの2種のタンパクが存在しており、ポリクロ-ナル抗体で検討した場合には両者は免疫学的にほぼ均一であることを明かになった。さらに、モノクロ-ナル抗体を調製すると両者を認識するクロ-ン以外に一方のみしか認識しないクロ-ンが得られ、特異的なエピト-プの存在が示唆された。各フラジェリンのN末端アミノ酸を約20残基解析すると、極単毛については2つのグル-プに分けられ、一方は他のグル-プの12番目からの配列に類似にしていた。しかし、1例を除いては、同じ菌株の42kDと44kDは類似しており、分子サイズの違いをN末の相違で説明することはできなかった。側毛については各種とも類似性が強かった。極単毛と側毛を比較すると、20残基中6〜8残基が一致している程度で、あまり類似度は高くなく、分類学的にかなり離れた細菌であるサルモネラや大腸菌の鞭毛との類似度と差がなかった。すなわち、側毛と極単毛は共通の遺伝子から出発したと思われるが、それぞれ独立に進化して現在の姿になったと思われる。
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