単純ヘルペスウイルス1型HF株のベロ細胞におけるビリオン形成過程について解析し、以下の結論を得た。 1.感染性ウイルス形成は、培養液への塩化アンモニウムの添加によって直ちに停止する。ヌクレオカプシド形成は、試薬添加後、正常に継続するが、ビリオン形成は大きく形成量を減じている。試薬の作用点は、第一義的に感染性ウイルス形成であり、その主な原因はウイルスヌクレオカプシドのエンベロ-プ獲得過程(ビリオン形成過程)に対する阻害によると考えられる。 2.単クロ-ン抗体を用いて調べたところ、ビリオン形成阻害条件下においてもエンベロ-プ蛋白質の合成と細胞表面への輸送は阻害されていない。さらに、感染細胞表面への感作赤血球吸着能(エンベロ-プ蛋白質の活性)の出現が試薬存在下でも阻害されないので、細胞表面のエンベロ-プ蛋白質は正常な生物活性を持つ。これらの結果は、試薬による阻害がウイルス蛋白質合成や輸送の阻害による間接的な結果ではないことを示す。 3.サイクロヘキシミドの添加により感染細胞の蛋白質合成を阻害すると、感染性ウイルス形成は直ちに停止するが、ビリオン形成は正常に一時間余り継続して停止する。この結果は、感染性ウイルス形成には蛋白質合成の継続が必要であるが、ビリオン形成には必要でなく感染細胞内に必要な蛋白質のプ-ルを持つことを示す 4.塩化アンモニウムと同様の阻害は、低濃度で有効なクロロキン、細胞内小胞の膨化を引き起こさず有効なトリ-N-ブチルアミン、作用機構の異なるモネンシンによっても見られる。これら試薬類の共通作用点は細胞内酸性小胞の酸性pHの中和であり、感染細胞における子孫ウイルス形成部位(ヌクレオカプシドのエンベロ-プ獲得部位)は細胞内酸性小胞であること、及び、その酸性pHが感染性ウイルス形成に必須であることを示す。
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