単純ヘルペスウイルス1型(HSVー1)の感染性子孫ウイルスが感染細胞内のどの小器官でどのように形成されて行くのか明らかにする目的で、HSVー1のエンベロ-プメント過程について定量的な解析を行ってきている。塩化アンモニウムによるHSVー1増殖阻害についての解析から、HSVー1の粒子形成は細胞内酸性区画で行われるということを昨年度明らかにしたので、細胞内で最も塩化アンモニウム感受性部位と報告されているゴルジ体に焦点を絞り、HSVー1粒子形成におけるゴルジ体の役割について検討した。 1.ゴルジ体に特異的に作用して処理細胞からゴルジ体を消失させる薬剤ブレフェルディンA(BFA)によりHSVー1の増殖が抑えられ、HSVー1の増殖(感染性ウイルス産生)にゴルジ体が必須の役割を担っている。 2.gDスパイク糖蛋白質のプロセッシングを指標にBFAのHSVー1感染Vero細胞への作用を調べたところ、試薬は添加と同時にゴルジ機能を阻害する。 3.感染性ウイルス産生は試薬濃度の増加とともに指数的に減少するのに対し、ウイルス粒子形成は80%までは指数的に減少するがそれ以上の減少はなく、残り20%の粒子形成は高濃度の試薬存在下においても継続する。 4.細胞内にウイルススパイク蛋白質やヌクレオカプシドが充分に蓄積されている感染後期にBFAを添加しても、試薬添加と同時に粒子形成阻害がみられ感染性子孫ウイルス形成も停止した。 これらの結果、(1)HSV感染細胞内にはBFA感受性(ゴルジ体と考えている)と非感受性(核膜及びER膜と考えている)と2種類のエンベロ-プメント部位があること、(2)感染性ウイルスはBFA感受性部位からのみ生じることを示唆しており、検討を続けている。
|