単純ヘルペスウイルス(HSV)感染細胞において、感染性子孫ウイルス粒子がどこでどのように形成されるのかについて感染性を指標にしながら生化学的並びに細胞生物学的な手法によりウイルス粒子形成過程を定量的に解析した。細胞内酸性小胞の小胞内pH上昇作用を示す塩化アンモニウム及びクロロキンによるウイルス増殖阻害についての解析から、HSV粒子形成部位、即ち、ウイルスヌクレオカプシドのエンベロ-プ獲得部位が細胞内酸性小区画であること、その酸性pHがウイルス粒子形成にとって重要であることを明きらかにした。試薬処理条件下でのウイルススパイクタンパク質の生合成と細胞内輸送を調べる一環として、HSV感染細胞表面への感作赤血球吸着反応のカイネテイックスを解析した。試薬処理条件下でもスパイクタンパク質の合成と輸送は正常である。また、細胞内小器官の中で最も酸性で試薬感受性の部位と知られているゴルジ体について、ブレフェルディンA(BFA)を用いてHSV粒子形成における役割について検討した。その結果、ウイルス粒子形成部位は2種類在り、感染性ウイルスはBFA感受性部位(こちらで8割のウイルス粒子が作られる)で作られ非感受性部位では非感染性粒子のみが形成されることを明らかにした。これらの結果に基づき、HSVー1感染細胞におけるウイルス粒子形成(ヌクレオカプシドのエンベロ-プメント)は、ゴルジ膜とその他の膜系(例えば、核膜)とで行われるが、感染性ウイルスは前者でのみ形成されるという仮説を提唱し、現在、検討を行っている。
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