インフルエンザHAワクチンを無毒のアジュバントであるコレラトキシンのサブユニットB(CTB)と共にマウスに経鼻接種することにより、次の結果を得た。(1)4週後の鼻洗浄液中にIgA抗体を、血中に高レベルの血球凝集阻止抗体を検出した。これと平行して、致死量のウイルス感染に対する完全な感染阻止が実現された。(2)CTBと共に同じ亜型の変異ウイルスや異なる亜型のウイルス由来のワクチンを接種したマウスにおいて、部分的な感染阻止が認められた。(3)高いレベルの抗体応答は、CTBとワクチン接種3週間目以後少なくとも4ヵ月以上持続し、その間感染阻止も持続した。(4)CTBとワクチン接種4週間後に、ワクチンのみを2次接種する方法によって、さらに高レベルの気道のIgA抗体を確保できた。同時に、感染に対する防御効果の持続が観察された。また、変異ウイルス由来のワクチンを接種したマウスにおいて、交差反応性を示す気道のIgA抗体産生の増加と相関して、交差感染阻止がみられた。 ヘマグルチニン(HA)分子をCTBと共に経鼻接種し、4週後にHA分子のみを2次接種したマウスにおいて、上記ワクチンを用いて得られたのと同様の抗体応答の増加や感染防御効果が観察された。さらに気道の洗浄液より分離精製した抗HAIgA抗体が、血中のIgGよりも変異ウイルスに対する交差反応性が高く、しかも受動免疫によって感染阻止を直接媒介できることが明らかになった。 以上の結果がそのままヒトに当てはまるとすると、CTBを用いた経鼻接種ワクチンは、次の利点を持つ。(1)鼻腔内噴霧によってワクチン接種できる。(2)血中抗体に加え、変異ウイルスの流行に対応できる交差反応性の高いIgA抗体を粘膜上に確保できる。(3)長期間の予防効果が望める。(4)亜型や型の異なる複数のウイルス由来のワクチン、あるいはHA分子を複数混合接種することにより、様々な流行に対応できる。
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