胸腺内では自己反応性T細胞を除去する機構が存在するものと予想されている。その機序の1つとして、本研究ではDNA切断を介した細胞死の機構が働いているかを検討した。その結果、次のような成果が得られた。(1)無処置群では約20%のDNA切断が観察されるのに対し、ホルボルエステルやCa^<2+>イオノホアの存在下では約80%のDNA切断と細胞死が観察され、しかも、この切断死はほとんどCD4^+8^+細胞でのみ観察された。(2)レセプタ-を介するシグナルのモデルとして、抗CD3抗体でコ-トしたプレ-トを用い、胸腺細胞を刺激した結果、対照群に比し約20%のDNA切断率上昇が観察された。(3)このDNA切断率上昇はC-キナ-ゼ阻害剤であるH-7や蛋白質合成阻害剤であるシクロヘキシミドで抑制された。(4)抗CD3抗体でDNA切断の観察される胸腺細胞はCD4^+8^+に属する亜集団であることが、抗CD3抗体存在下で培養後回収した細胞のFACSによる解析や、胎生18日目の胸腺細胞を用いた結果から明らかとなった。(5)しかし、抗CD4抗体と抗CD8抗体を用いて分離したCD4^+8^+細胞単独を抗CD3抗体で処理してもDNA切断率の上昇が観察されず、このとき、IL-1、IL-2、IL-3、IL-4、IFN_γを共存させても、DNA切断率上昇の回復は観察されなかった。 さらに、レセプタ-を介したシグナルによるDNA切断現象を解析するモデルとして、抗CD3抗体やF23.1抗体で処理して死に至るハイブリド-マをいくつか樹立した。これらのハイブリド-マを用いて、DNA切断の方がトリパンブル-で判定する細胞死に先行すること、このDNA切断にはCaイオンの流入と、新しい蛋白の合成が必要なこと、最終的にはエンドヌクレア-ゼが作用するであろうことなどが明らかにされた。
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