生体内での物質代謝あるいは代謝速度が一般青壮年期の人とは異なると考えられる老齢者および妊婦を対象とし、青年期健常者を対照群としてスポット尿を採集しその変異原性Ames test(TA98+S9mx)を比較検討した。尿中変異原物質はXADー2樹脂カラムにより吸着させ、ジクロルメタン、次いでアセトンによる二段階溶出を行い、各分画についてそれぞれ変異原性試験を行った。各分画の変異原性試験によって得られた変異原性の和を、個々人の尿の総変異原性とみなし評価した。 高齢の男子非喫煙者22名の尿100ml当りの変異原性は、124±73Revertants(mean ± SD)であったのに対し、非喫煙の男子青年53名のそれは119±53 Revertantsであり、両群間に有意の差は見られなっかった。青年の尿の変異原性は、DCM分画とアセトン分画がそれぞれ約50%で、喫煙者も非喫煙者も同様であるが、高齢者非喫煙者群では、DCM分画からのものが38%であるのに対し、喫煙者群では75%を占めていた。高齢者群のクレアチニン量は全般的に青年群より低値を示した。このことは、高齢化に伴う腎機能の変化を窺わせるものである。 非喫煙の妊婦28名の尿100ml当りの総変異原性は、98±55 Revertantsであり、非喫煙の非妊婦12名のそれは68±61 Revertantsで妊婦の方がやや高い傾向を示したがバラツキが大きく有意の差は見られなかった。 DMC分画とアセトン分画との相互作用は総じて、抑制の方向に作用した。また、アセトン分画はB(a)Pの変異原性を抑制する方向に作用し、その平均抑制率は妊婦で58%であり、非妊婦では59%であった。これらの結果から、人の尿中には抗変異原性作用物質が存在している可能性が示唆された。
|