研究概要 |
本研究課題の開始に先立ち、ウサギ心臓に虚血・再潅流処理を施すと、筋小胞体は著しい障害を受けるが筋細胞形質膜は損傷を受けないことを観察していた。本課題に対する昨年度の助成により、ウサギ骨格筋を活性酸素生成系と混和すると、脂質過酸化以前に酵素タンパク質が修飾を受け、且つ分解することを見いだした。本年度は虚血・再潅流が心臓のエネルギ-変換効率にどの様な影響を与えるかを、ラット心臓を用いて、心機能とミトコンドリア(MIT)機能の関連から調べた。 ラット摘出心を4℃でEuroーCollins液に0,8,12,24時間単純浸漬して低温虚血群、さらに37℃でKrebsーHenseleit液を40分潅流して再潅流群をえた。心収縮性は虚血により低下したが、8時間虚血後再潅流群と12時間虚血後再潅流群の間に有意差はなかった。心仕事量と酸素消費量は長時間虚血後の再潅流群でも正の相関を示した。しかし、無負荷状態での酸素消費量も荷負荷状態での心仕事量当りの酸素消費量も共に12時間虚血後の再潅流で有意に増大した。虚血群、再潅流群各々からMITを単離し、酸素電極を用いてその機能を調べた。MIT収率は各群間に有意差はなく、心機能の低下に見合うほどの臓器の損傷のないことが推測された。MITの呼吸調節率とP/0値から見積ったMIT機能は、虚血処理で低下し,12,24時間の虚血後の再潅流でさらに低下した。MITの過酸化脂質量は12時間以上の虚血で増加し、再潅流でさらに増加した。以上の事実から,12時間以上の虚血によって、酸素消費量は増大するが、その機械的仕事量へのエネルギ-変換効率は低下することが明かとなった。この効率の低下は虚血再潅流によるMITの機能障害によるエネルギ-産生能の低下に起因することが示唆された。したがって、エネルギ-変換効率からみた低温保存心の機能は8時間を越えなければ保持されうることが示唆された。
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