研究概要 |
本研究は、(1)職業性感作物質の許容濃度表への表示に関する文献的研究、(2)吸入感作における量・効果に関する実験的研究、(3)感作性物質の予知とその許容濃度設定の方法論の検証に関する症例研究および実験的研究から構成される。(1)では、諸外国の許容濃度表に関する資料・文献をもとに職業性感作物質をリストアップし、さらに感作反応の部位別(皮膚、呼吸器)に、感作能を裏付ける証拠の程度によりグレ-ド化し、文献リストを併記し、別表としての提案の準備を終えた。(2)では、呼吸器に対する感作能を予知し、その感作反応における量・効果(反応)関係を明確にし、その許容濃度設定の根拠とすべき基礎資料を得るために、TDIを用いて、当研究室で開発した吸入曝露モデル実験を行った。その結果、感作処置時の3段階の濃度(0.2,0.02,0ppm)に依存した好塩基球脱顆粒現象の上昇が認められ、TDIに対する特異的抗体産生における量・反応関係を示す成績を得た。また呼吸率の変動でも濃度依存性の反応が認められが、わが国の許容濃度である0.02ppm濃度では感作は成立しなかった。(3)では、症例研究で即時型過敏症を惹起することが示唆されたTPNと諸外国文献により喘息を主とした職業性呼吸器障害を惹起するとされるTMAとを用いて、本実験法の予知法としてのまた許容濃度設定の方法論としての妥当性を検討した。その結果、TPNでは感作濃度に依存した呼吸率の上昇が認められ、またTMAでは呼吸への影響はないものの脱顆粒試験においてTMA感作の成立を示唆させる成績を得た。これら一連の実験研究により、許容濃度設定のための本実験モデルの有用性が示唆されたが、標準化の点ではまだ十分とは言えず今後とも継続的な実験研究が必要である。一方感作物質の予知法としてもその有用性が確かめられたが、本実験モデルを基礎にさらに感作成立のより簡便かつ鋭敏な検出法の検討が今後の課題として残った。
|