研究概要 |
さまざまな大気及び室内環境、さらには労働環境を評価する際、汚染物質を同定し、各汚染物質ごとの濃度を測定する化学的検索がなされているが、これだけでは充分ではなくAmes test等の変異原性試験が補足的に行われている。しかしながら、変異原性試験はgenotoxicityの評価には有効であるが、慢性閉塞性肺疾患の発症や癌の促進作用を評価することはできない。特に、大気汚染で問題となる二酸化窒素(NO_2)やダイオキシン類は癌の促進作用があることが言われており、変異原性試験以外の生物学的評価法が必要となる。そこで今回は大気・室内汚染および労働環境の新しい生物学的評価法を開発する第一段階として、タバコ煙、NO_2、ベンゾ[a]ピレン(BaP)等の主な汚染物質による生体影響をin vivo、in vitroで各濃度ごとに調べ、それぞれの影響指標が生物学的評価法として有効かどうか検討した。まず、チャンバ-内でラットにNO_2あるいはタバコ副流煙を1日8時間、5日間暴露した。肺、腎、肝の芳香族炭化水素水酸化酵素(AHH)活性はタバコ煙暴露により上昇したが、NO_2(1ー20ppm)では変化を認めなかった。チトクロムPー450総量は、タバコ煙、NO_2いずれの暴露でも誘導を認めなかったが、SDSーPAGEをするとタバコの暴露量に呼応してPー450cに相当する分子量56,000付近にPolypeptide bandの出現を認めた。チトクロムPー450b,c,dイソ酵素に対する特異的抗体を用いたWestern Immunoblot法にてにて誘導されるいそ酵素を調べたところ、タバコ煙暴露によりチトクロムPー450b,c,dいずれのイソ酵素も暴露量に依存して誘導されていた。また、タバコ煙およびNO_2暴露で肺胞洗浄液中の蛋白濃度、ALP活性、LDH活性が上昇した。ラットにおける生体影響としてはこの肺胞洗浄液の変化が最も鋭敏であった。次に、in vitro試験としてHeLa細胞およびC3H/10T1/2細胞を用いた上皮成長因子(EGF)結合試験を行った。いずれの細胞を用いた場合も ^<125>IーEGFと細胞表面のEGFレセプタ-との結合は60ー80分でプラト-に達した。この結合は細胞密度により異なり、細胞密度が低いほうが単位細胞当たりの ^<125>IーEGF結合量が多いことがわかった。細胞密度を一定にして種々の濃度のBaPによるEGF結合の変化を調べたが、明確な抑制は認められなかった。今回、生物学的評価法となりうる生体影響をin vivo、in vitroで調べたが、いくつかの指標で期待されたような結果は得られなかった。とくにEGF結合試験では細胞密度や細胞の状態により結合量が大きく影響されることから、結合試験の条件をより厳格に決める必要があることがわかった。今回の結果を参考にしてさらに検討を重ねる必要があると考えた。
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