研究概要 |
本研究の目的は中国帰国者の日本での適応状態を把握するとともに,適応の促進・阻害要因を考察し,効果的な援助のあり方を検討するものである。 そこで,まず既存資料による適応状態の実態把握調査を行った。対象は,特別区人事厚生事務組合・宿所提供施設・塩崎荘に昭和49年9月から平成元年3月末日までに入退所した中国帰国者105世帯400名(男212名,女188名)である。対象者の内訳は,残留孤児あるいは残留婦人世帯関係者が315名,その他のいわゆる戦前の国際結婚世帯関係者が30名,戦後渡航世帯関係者が53名である(2名は,不明)。方法は,同施設ソ-シャルワ-カ-による中国帰国者の入所中の記録を基に,適応上の問題が生じた事例の検討を行ない,背景項目別に整理し,適応関連要因を比較検討した。その結果,主な適応上の問題としては,二世,あるいは三世の思春期の子供達の問題,非行や不登校の問題及び離婚問題を中心とする家族内葛藤がみられた。精神医学的問題としては,抑鬱状態,不眠症を含む神経症状態が主にみられた。これらの問題の出現は,残留孤児・婦人世帯関係者群や戦後渡航世帯関係者群に比べて戦前国際結婚世帯関係者群が低かった。世代ごとの比較では,一世と中国人配偶者が不適応問題を生じ易かった。不適応発現と背景要因との関連では,帰国から入所までの期間との関連が認められた。受入援助態勢の問題が大いに関わっているといえよう。また,日本語能力との関連では,一世に対して不適応問題の発現と関連がみられたが,二世,三世,中国人配偶者に関してはみられなかった。これは,日本人としての民族同一性の問題が深く関わっていると考えられる。さらに現在,同施設退所者を対象に適応状態調査を実施中であり,また,特別区人事厚生事務組合の宿所提供施設及び宿泊所に入所中の中国帰国者家族を対象に適応状態調査を実施予定している。
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