本研究の主目的は、健康情報が膨大化する中で、適切且つ最新の危険度評価知識を確保するための方法論を確立する事であり、疾病発症危険度の診断及び予後予測を算出するシステムを開発する際の手法として、従来の統計手法、人工知能(記号論理)的手法、ニュ-ロネットワ-クによる手法を比較した。 初年度は、1)デ-タベ-スから実験デ-タの抽出(学習用218、検定用217例)するとともに、ニュ-ロネット入力用にデ-タの変換を実施した、2)ニュ-ロネットワ-クのアルゴリズムであるback propagation法のプログラム開発(FORTRAN言語、32サブル-チンから構成)を行い、3)計算機環境を整備した。 次年度は、1)肝胆道系3疾患(検定用デ-タ内訳:アルコ-ル性肝障害58例、原発性肝癌91例、肝硬変68例)に関する生化学検査デ-タを用いたニュ-ロネットワ-クの学習特性を調べると共に、2)判別関数による計量診断と診断精度の比較検討を行った。この過程で、初年度の段階で開発したback propagationをアルゴリズムとするニュ-ロネットワ-クプログラムの改良を試み、知識獲得に及ぼす学習誤差の変遷に関するモニタ-処理機能の追加を行った。最終的に、検定用デ-タ(external data)に対するニュ-ロネットワ-クを用いた診断精度は、97.7%であり、判別関数を用いた計量診断による65.4%と比較して、有意に高かった。 医療デ-タベ-スから健康危険度に関する知識獲得を行う際には、統計学的制約が厳しい計量診断的方法に比較して、ニュ-ロネットワ-ク法が診断精度が高く、有用であると考えられた。但し、学習定数、安定化定数の調整・局所最適解からの脱出については、今後の検討が必要であり、十分な実験環境を確保するには、並列演算ボ-ドなどの導入が必要である。
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