研究概要 |
ヒト体液中には多種類の核酸分解酵素が存在しているが、法医鑑識科学の領域ではまったく活用されてこなかった。そこで、これらの酵素の法医学的応用をはかる目的でこの研究が企画された。 1)尿中に存在する二種類のデオキシリボヌクレア-ゼI,II(DNase I,II)をヒト尿から分離・精製し、その生化学的および免疫学的性状を精査した。これらを基礎に、高感度な活性測定法、等電点電気泳動(IEFーPAGE)と免疫ブロット法あるいは新たに開発した活性染色法との併用によるDNaseアイソザイム検出法などを確立した。尿および血清DNase Iアイソザイムは少なくとも10種類の表現型に分類され、遺伝的多型の存在が認められた。DNase Iは常染色体性相互優性な少なくとも4個の対立遺伝子によって支配されており、これらの遺伝子頻度に片寄りが少ないことから、法医学的に有用な遺伝標識のひとつになるものと考えられた。また、尿および白血球のDNase IIに認められる個人間における酵素活性の強弱は常染色体上の優劣のある2個の対立遺伝子によって支配されており、低活性型が劣性形質であることをも明らかにした。 2)ヒト赤血球、脾臓、腎臓からそれぞれ2種類、1種類、3種類のリボヌクレア-ゼ(RNase)の分離・精製に成功した。これらと尿RNaseとを比較検討すると、酵素化学的および免疫学的性状には極めて類似していたが、糖組成に明らかな相違が見られた。このことはヒト臓器および尿RNaseの糖鎖構造における臓器特異性の存在を示唆した。 3)さらに、凝固・腺溶系の一因子であるヒト血清プロテインCインヒビタ-に遺伝的多型の存在することを、IEFーPAGEと免疫ブロット法とを併用することによって初めて明らかにし得た。
|