研究概要 |
最近数年間行った法医解剖のうちで、1)老年性痴呆、アルツハイマ-病と臨床的に診断された2例(60歳男、64才女)、2)入院歴はないが痴呆症状が明らかで、夜間の路上徘徊、赤信号無視で交通事故死した2例(81歳男、72歳女)山中で道に迷い虚血性心疾患死した1例(85歳男)、3)非痴呆例で65歳以上の老人6例。以上の3群について、a)剖検時の脳重量の比較、b)固定脳の各部切片を、HE,Nissl,LFB及びHolzer染色などの一般染色、Bielschowsky,Bodian及び渡辺法の鍍銀染色に加え、グリア原線維酸性蛋白(GFAP)がastrocyteのグリア線維を構成する大部分の蛋白であるので、免疫組織化学的染色のGFAP染色をABC法で行った。その他、GFAP染色とcongo red染色の二重染色、thioflavin S蛍光染色も行った。 〔結果及び考察〕a)上記第1群2例の脳重量は1,080gと1,090gで性状値より有意の減少が見られた。第2,第3群には脳重量で有意の差を認めなかった。これは第2群の発病年齢が比較的おそかったものと考えられる。b)1群,2群のアルツハイマ-型痴呆(ATD)群と3群(対照群)との組織所見に明らかな差異が認められた。ATD群の腫瘍な組織学的特長は老人斑と神経原線維変化が多数存在することで、両者は有用な診断マ-カ-と考えられた。アンモン角のSommer扇部の錐体細胞内における顆粒空胞変性の程度にも両群で差異がみられた。GFAP染色では、典型的な老人斑が反応性astrocyteによって取り囲まれ、突起が老人斑内部に深く進入していた。Congo red染色、thioflavin S染色にて老人斑のアミロイド芯や血管壁のアミロイド変性がよく検出された。Khachaturianの報告による専門家のワ-クショップで意見が一致して作られたATDの剖検診断基準を用いて老人斑の数を顕微鏡で拡大200倍の視野で数えたところ、ATD群にはいずれも基準を十分満たす多数の老人斑が認められた。生前の痴呆の程度と老人斑及び神経原線維変化の出現程度に高い相関が認められた。
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