研究概要 |
慢性甲状腺炎の発症機序を明らかにする目的で同疾患の実験動物疾患モデルであるマウス実験自己免疫性甲状腺炎(experimental autoimmune thyroiditis:EAT)におけるチログロブリン(thyroglobulin:Tg)に対する自己免疫応答の特異性を、甲状腺炎の発症を指標に解析した。 1.異種動物由来Tgを免疫することによる甲状腺炎の発症:自己抗原であるマウスTgではなく異種動物であるヒトあるいはウシ由来のTgをマウスTgに高応答性のC3H/HeNマウスに免疫したところ、ヒトTgの免疫でマウスTgと同様の強さの甲状腺炎が認められた。ウシTgの免疫によっても甲状腺に細胞浸潤が認められた。これより甲状腺炎の発症に、種属間に共通のTg抗原決定基に対する自己免疫応答が関与していることが示された。 2.Tgフラグメントを免疫することによる甲状腺炎の発症:マウスTgをStaphylococcus aureus V8株由来のproteaseで処理しTgフラグメント(Tg Fr)を得た。このTg FrをTgに高応答性のB6C3F1マウスに免疫したところ分子量35,000以上のTg Frの免疫にて、Tg免疫と同程度の強さの甲状腺炎が認められた。また、分子量18,000あるいは13,000のTg Frを免疫することにより、甲状腺に単核球の浸潤がわずかに認められた。しかし、分子量8,000のTg Frの免疫では甲状腺炎は誘導されなかった。同様にヒトTgのフラグメントを作成しマウスに免疫したところ、分子量18,000以上のヒトTg Fr免疫によりヒトTgを免疫したのと同様の強さの甲状腺炎が、マウスに認められた。 このように、甲状腺炎の発症にかかわるTgの抗原決定基は、種属間に共通の抗原決定基を含むTg分子の特定の部位であることが示された。現在、細胞レベルにおけるこれらTg抗原決定基に対する調節機構の解明を行なっている。
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