糖尿病(DM)心筋における細胞障害の機構を明らかにするため心筋細胞内カルシウムの調節異常としての電位依存性カルシウムチャネル(VOCC)異常と細胞内小器官へのカルシウム蓄積を検討した。 (1)糖尿病心筋におけるミトコンドリア(MIT)内カルシウムの異常沈着: シオノギ研究所水平博士との共同研究により、蓚酸-ピロアンチモネ-ト沈澱法、マイクロウエ-ブ固定法を併用して、電子顕微鏡上にてX線微小分析法を用いて検討した。DM心筋のMIT内カルシウムは対照に比し48%増加し、特に膨潤しクリステの配列異常を示すMITがDM群で増加し、そこにカルシウムの貯留が大であった。 (2)心筋内カルシウムチャネル異常: DM心筋細胞膜VOCCをジヒドロピリヂン系VOCC阻害剤である[3H]PN200-110を用いて測定したところ、DM作成後6週以後増加し、10週では対照に比し結合数が64%増加したが、結合の親和性には差を認めなかった。またその結合に対するverapamilの抑制効果はDM群で軽度であり、結合に関して質的異常を認めた。細胞内へのカルシウム流入、VOCC蛋白の増加、mRNA量の変動も検討中である。 (3)糖尿病ラット骨格筋におけるVOCCの異常と細胞内カルシウム分布異常: 糖尿病心筋で認められた細胞内カルシウム異常がヒラメ筋でも認められ、原子吸光法によるカルシウム測定にてDM群では対照群に比し42%増加していた。下腿三頭筋より作成した粗膜分画への[3H]PN200-110結合を検討したところVOCC数はDM作成後6週から増加し、10週では対照に比し91%増加したが、親和性の異常は認めなかった。 (4)カルシウム拮抗剤の糖尿病心筋protein kinase C (PKC)活性に及ぼす影響: DM心筋内PKC活性を膜分画、可溶性分画にわけて測定したところ対照群に比し各々41%、94%増加し、糖尿病心筋の心機能不全への関与が示唆された。これら異常はベラパミルの投与により正常化した。糖尿病心筋細胞にはカルシウム過剰流入が存在し心筋細胞障害を来す可能性が示唆された。
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