本年度は基礎的実験として雑種成犬にdiethylnitrosamine(zul/kg)を連日投与し、肝硬変を作成することを試みた。現在進行中である。臨床的研究としては門脈圧亢進症の代表的疾患である肝硬変症、特発性門脈圧亢進症、バットキアリ-症候群の門脈血行動態を門脈圧、肝静脈圧測定と超音波血流計による脾動、静脈血流量、上腸間膜動、静脈血流量、門脈本幹血流量の測定にて調べ、門脈亢進の機序に差異があるか否かを検討した。門脈血管抵抗の増加及び門脈系への流入血流量の増加が共に特発性門脈圧亢進症及び肝硬変症の門脈圧亢進において重要な二大因子であることが明らかとなった。しかし門脈流入血流量の増加は、特発性門脈圧亢進症及び脾臓の大きさが500cm^3以上の巨脾性肝硬変症でより著名であることがわかった。食道静脈瘤は門脈圧亢進の結果として形成されるわけであるから、今回得られた成績は、特発性門脈圧亢進症及び巨脾性肝硬変症の食道静脈瘤に対して薬物療法が成立することを意味していると思われる。更に門脈流入血流量を減少させると、食道静脈瘤を形成している左胃静脈血流量が減少するか否かをバソプレシンを0.3単位/分で経静脈的に投与し検討した。バソプレシン投与15分後、脾、上腸間膜静脈血流量及び左胃静脈血流量は共に約50%減少した。この結果は、薬物にて門脈流入血流量を減少させることが食道静脈瘤の治療にありうることを示唆する。バッドキアリ-症候群の門脈血行動態については現在検討中である。
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