消化性潰瘍の攻撃因子に関与するgastrinの遺伝子発現を検討することは、消化性潰瘍の病態を知るうえで重要な意義がある。消化性潰瘍患者の内視鏡下生検組織においてgastrin mRNAの検出を試みた。 対象と方法:胃潰瘍7例、十二指腸潰瘍6例、正常者10例を対象とした。内視鏡下に生検した幽門部粘膜織から、CsCl法により全RNAを抽出した。抽出した全RNA10μgとgastrinおよび指標として用いたβーactinに対する合成DNAプロ-ブを用いて、Northern blot analysisを行った。血中および組織中big gastrinの免疫活性はradioimmunoassayを用いて測定した。また全RNA1μgをDNase処理後、逆転写酵素を用いてcDNAを作製した。gastrin前駆体の一部に対応するprimerを合成し、作製したcDNAとPolymerase Chain Reaction(PCR)法を行いgastrin nRNAを増幅した。βーactinについても同様にPCR法を行い、増幅の指標とした。 結果:Northern blot analysisによる検討で、内視鏡下生検組織よりgastrin mRNAと考えられる約0.5kbのバンドを、胃潰瘍2例、十二指腸潰瘍と3例および正常者5例で検出し得た。gastrinとβーactinのmRNAのバンドの濃度比をgastrin mRNA量とした場合、gastrin mRNAの検出率が低いため、Northern blot analysisでは潰瘍群と正常群で有意な差を認めなかった。血中及び組織中免疫活性濃度にも有為な差を認めなかった。PCR法を用いると、検討したすべての生検組織において、primerの部位から予想される、増幅された約210bpのgastrin mRNAと、約500bpのβーactin mRNAに相当するバンドが検出された。βーactinのmRNA量で補正したPCR法によるgastrin mRNA量は、Northern blot analysisにより検出されたgastrin mRNA量と良い相関が認められた。PCR法を用い、消化性潰瘍患者の内視鏡下生検組織において、gastrin mRNAの検出法を確立した。
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