研究課題
1.D-ガラクトサミン投与により誘導したラットの急性肝不全モデルのうち、異常脳波(高振幅徐波)を示すものを実験に供した。庶糖密度勾配遠心法により、脳幹(延髄と橋)シナプトソ-ムを上清とミトコンドリア分画に分離し、ミトコンドリア分画の抑制性神経伝達アミノ酸(γ-アミノ酪酸GABA、グリシン)と興奮性神経伝達アミノ酸(グルタミン酸Glu、アスパラギン酸)濃度を測定した。その結果、GluとGABA濃度はともに減少し、またGlu/グルタミンGlnの比も低値を示し、神経細胞と神経膠細胞との間のGlu-Gln回路の異常が示唆された。そこで、シナプトソ-ム・ミトコンドリア分画でのGln→Gluを触媒するグルタミナ-ゼ活性の調節機構を検討したところ、前年度までの研究成績と同様、塩化アンモニウム、メルカプタン、低級脂肪酸でその活性が強く抑制され、さらにCa^<2+>、芳香族アミノ酸でも活性低下の成績が得られた。しかし、ベンゾジアゼピン(BZ)やGABA/BZ受容体/Cl^-チャンネル複合体拮抗剤の添加による影響はみられなかった。2.肝不全モデルに分枝鎖アミノ酸液(各42-63mM)を輸液すると(10m /kg)、脳幹シナプトソ-ム・ミトコンドリア分画のGlu/Gln比の低下が是正され、GABA濃度の回復も認められた。これらの変化は主として脳幹神経細胞内のアンモニア濃度の低下により生じた可能性が強い。3.以上より、神経細胞内アンモニア濃度が神経細胞内の神経伝達アミノ酸濃度の維持に重要な調節機構を発揮し、脳内アンモニア代謝の是正が肝性脳症の治療に極めて重要であることを示唆している。今後、さらに、ラットの初代培養神経細胞や神経膠細胞におけるグルタミナ-ゼ活性に及ぼすアンモニアと分枝鎖アミノ酸の影響をin vitroで直接観察し、肝性脳症の基本的病態を明らかにしたい。
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